医療「事故」と医療「過誤」⑦
2010年12月14日http://4urpet.net/
医療「事故」と医療「過誤」⑦
こう言えば分って頂けるかも知れない。刑事がAさんを犯人だと疑い、逮捕したとしよう。そして、様々な取り調べをして無罪であると分かった時、つまり誤認逮捕であったら、その刑事は逮捕され、刑事罰を受けるだろうか?或いは、検察が起訴まで持っていったにもかかわらず冤罪が確定されたら、担当検事は刑事罰になるのか?Aさんに対して、刑事や検事は個人的に損害賠償を行うだろうか?刑法第35条に「正当行為」として、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定められているため、刑法上の処罰は無いのであろうが、民事上で何らかの賠償責任が問われはしないのか?もし、裁判官が“トンデモ判決”を行ったら刑事罰になるのか?これら全て「過誤」だろ?!これら全てが刑事罰を受けるというのなら、我々医師も、医療事故や医療過誤で刑事罰を甘んじて受けようではないか!
野球選手が三振したら失敗である。エラーしても訴えられまい。サッカー選手が意図的にファールすれば、これは立派な傷害「事件」だが、これが訴訟になるか?誰も訴えないからだけなのか?郵便配達が誤配しても謝るだけだし、新聞記者やジャーナリストが誤った報道をしてもお詫びと訂正で済むではないか?デパートの店員が、知らずに傷んだ商品を売りつけても弁償だけだろうし、割烹が食中毒を起こしても短期間の業務停止くらいだろう。スピード違反や駐車禁止も、分かっていてやったのなら確信犯で「事件」になるし、ワープロの打ち間違えや印刷物の誤植は「過誤」なのだ。サラリーマンが、真面目に仕事をしていて、結果的に会社に損害を与えてしまったら、これは刑事罰か?これら全てが逮捕され、刑事罰の対象になるのなら仕方あるまい。その扱うものが『命』であるからとはいえ、「事件」なら当然罰せられねばならないが、何故、医師のみが仕事の上での「事故」や「過誤」で刑事罰を受ける必要が有るのだ?とても「事故」とは言えない悪質な場合や、“犯罪的”な「過誤」ならいざ知らず、真面目に、真剣に、真摯に患者と取り組んでも、その結果として患者の期待に応えられないことの代償が刑事裁判の被告席なら、誰が好き好んで危険に立ち向かうのだ?!
医師が行う診療行為は、特に外科手術などは、患者に傷を付けることが前提な訳だから、本来はモロに“傷害罪”のはず。だが、当然「正当行為」でもある。危険を多少なりとも必ず伴うのが医療行為なのだから、「事故」や「過誤」も「正当行為」における結果で有り、犯罪性が全く無いものを刑事事件として捜査することは言語道断である。
後からなら何とでも言えるものだ。外野がモノを言うのは楽だが、必死で助けようとしている者の努力を鼻で笑うつもりか?奥から奥から湧き出てくる出血の洪水の中で、徐々に血圧が低下し、早くどうにかしないと術中死は避けれない、訴訟になるかも・・・、という恐怖を一度味わってみれば良い。術野が中々確保できず、あとチョット向こうが見えたらなぁ、と思って慎重に臓器を持ち上げたのに、死角になっている場所の血管が裂けて大出血することが有る。動脈硬化が激しく、通常の手術操作に耐えれない血管も有る。腫瘍が大事な組織に食い込んでおり、絶対に再発させたくないので全部取り切ろうとしたが、神経を巻き込んでいることに気付かず、千切ってしまう事も有る。外科医にとって、「冒険」と「無茶」は紙一重なのだ。このプレッシャーに耐え切れず、外科系から身を引く医師達が、現実には腐るほど居るのである。私自身、何度もそんな経験が有るため、悟りを開いたわけでは無いが、心臓に毛が生えてしまったのか、今でこそ「成るようにしか成らんわぃ!」って具合に冷めた目で見れるようになったが、いつもいつもと言う訳では決して無い。本当の修羅場を潜ったことが有る医師なら、口が裂けても絶対に「事故」だの「ミス」だのは言わないし言えないはずだ。病魔に苦しむ者は当然のことだが、医師達はそんな患者の為に「死に物狂い」で様々なモノと格闘しているのである。そんな時、何が最善だの、こうすれば良かっただのと、冷静に考えるだけの精神的・時間的余裕が有ると思うのか?!(次回に続く)
医療「事故」と医療「過誤」⑦
こう言えば分って頂けるかも知れない。刑事がAさんを犯人だと疑い、逮捕したとしよう。そして、様々な取り調べをして無罪であると分かった時、つまり誤認逮捕であったら、その刑事は逮捕され、刑事罰を受けるだろうか?或いは、検察が起訴まで持っていったにもかかわらず冤罪が確定されたら、担当検事は刑事罰になるのか?Aさんに対して、刑事や検事は個人的に損害賠償を行うだろうか?刑法第35条に「正当行為」として、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定められているため、刑法上の処罰は無いのであろうが、民事上で何らかの賠償責任が問われはしないのか?もし、裁判官が“トンデモ判決”を行ったら刑事罰になるのか?これら全て「過誤」だろ?!これら全てが刑事罰を受けるというのなら、我々医師も、医療事故や医療過誤で刑事罰を甘んじて受けようではないか!
野球選手が三振したら失敗である。エラーしても訴えられまい。サッカー選手が意図的にファールすれば、これは立派な傷害「事件」だが、これが訴訟になるか?誰も訴えないからだけなのか?郵便配達が誤配しても謝るだけだし、新聞記者やジャーナリストが誤った報道をしてもお詫びと訂正で済むではないか?デパートの店員が、知らずに傷んだ商品を売りつけても弁償だけだろうし、割烹が食中毒を起こしても短期間の業務停止くらいだろう。スピード違反や駐車禁止も、分かっていてやったのなら確信犯で「事件」になるし、ワープロの打ち間違えや印刷物の誤植は「過誤」なのだ。サラリーマンが、真面目に仕事をしていて、結果的に会社に損害を与えてしまったら、これは刑事罰か?これら全てが逮捕され、刑事罰の対象になるのなら仕方あるまい。その扱うものが『命』であるからとはいえ、「事件」なら当然罰せられねばならないが、何故、医師のみが仕事の上での「事故」や「過誤」で刑事罰を受ける必要が有るのだ?とても「事故」とは言えない悪質な場合や、“犯罪的”な「過誤」ならいざ知らず、真面目に、真剣に、真摯に患者と取り組んでも、その結果として患者の期待に応えられないことの代償が刑事裁判の被告席なら、誰が好き好んで危険に立ち向かうのだ?!
医師が行う診療行為は、特に外科手術などは、患者に傷を付けることが前提な訳だから、本来はモロに“傷害罪”のはず。だが、当然「正当行為」でもある。危険を多少なりとも必ず伴うのが医療行為なのだから、「事故」や「過誤」も「正当行為」における結果で有り、犯罪性が全く無いものを刑事事件として捜査することは言語道断である。
後からなら何とでも言えるものだ。外野がモノを言うのは楽だが、必死で助けようとしている者の努力を鼻で笑うつもりか?奥から奥から湧き出てくる出血の洪水の中で、徐々に血圧が低下し、早くどうにかしないと術中死は避けれない、訴訟になるかも・・・、という恐怖を一度味わってみれば良い。術野が中々確保できず、あとチョット向こうが見えたらなぁ、と思って慎重に臓器を持ち上げたのに、死角になっている場所の血管が裂けて大出血することが有る。動脈硬化が激しく、通常の手術操作に耐えれない血管も有る。腫瘍が大事な組織に食い込んでおり、絶対に再発させたくないので全部取り切ろうとしたが、神経を巻き込んでいることに気付かず、千切ってしまう事も有る。外科医にとって、「冒険」と「無茶」は紙一重なのだ。このプレッシャーに耐え切れず、外科系から身を引く医師達が、現実には腐るほど居るのである。私自身、何度もそんな経験が有るため、悟りを開いたわけでは無いが、心臓に毛が生えてしまったのか、今でこそ「成るようにしか成らんわぃ!」って具合に冷めた目で見れるようになったが、いつもいつもと言う訳では決して無い。本当の修羅場を潜ったことが有る医師なら、口が裂けても絶対に「事故」だの「ミス」だのは言わないし言えないはずだ。病魔に苦しむ者は当然のことだが、医師達はそんな患者の為に「死に物狂い」で様々なモノと格闘しているのである。そんな時、何が最善だの、こうすれば良かっただのと、冷静に考えるだけの精神的・時間的余裕が有ると思うのか?!(次回に続く)
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