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医療「事故」と医療「過誤」⑧
詳細は他欄に譲るが、そもそも日本の現代社会に於いて、「医療事故」なのに、「逮捕」や「罪」という文字が用いられること自体に問題が有るのだと、常々私は思ってきた。これは拙ブログで散々述べてきたことだが、ただひたすら患者の為にと、良かれと思ってしたことでも、患者の望んだ結果が得られない場合、糾弾されるのが現在の日本の医者である。まさに「恩を仇で返す」時代なのだ。


医療は、その扱うものが『命』という特殊性ゆえ、失敗が許されないような風潮が有るが、人がやることにそこまで完璧性を求めて良いものなのだろうか?紙一重の際どい手術で、ミスを恐れてガチガチになり、かえってミスを誘発するような状況を許しておいて、一体誰の為になるのだろう?建て前は「医学が完璧を期すことは当然の責務」なのだが、100%は現実的に有り得ないのが医学の常識であり、本音を言えば、「より完璧を追求する姿勢が重要」であり、理想と現実を混同されては、現場の医師達は戸惑うばかりなのだ。


医療「事故」の場合、刑事責任等の処分が前提に有ると、個人の責任が問われて、ハイそれでおしまい、とトカゲのしっぽ切りのようになり、「何故そのような事故が起きたのか」、或いは、「今後どのようにすれば再発が防げるのか」、といった現実的で建設的な働きかけが牽制されてしまう。また、医師が刑事罰を受けると社会的にはまず立ち直れないという現実が有るため、「患者の為にしたことで自分が犯罪者にされては堪らん!」という意識が働いてしまい、事故を隠蔽してしまう体質が改善され難いという事も懸念される。より安全でより円滑な医療を目指すためにも、個人を吊るし上げるような風潮は排除し、事故の原因を客観的に分析し、制度面の不具合を改善させるシステム作りが急がれるということに関しては異論が無い事と思う。


これを受けて、厚生労働省は、「医療安全調査委員会(仮称)」の設置を検討しているという。診療中、不幸にして患者が死亡されたり、重大な過失や事故が疑われた場合、患者本人や遺族、或いは医療機関自身から届け出が有ると、この委員会が『真相』を究明するのだそうだ。出来る前からこんなことは言いたくないが、この「医療安全調査委員会」なるものは、おそらく適切に機能しないであろう。まず、「業務上過失致死」にまつわる現行の刑法を改編することが先決だと私は思うのだ。今の国民のモラルのままでは、如何なる人選を行っても“暖簾に腕押し”になる。その理由はこれまで幾つも述べてきたが、以前に特集を組んだ「医療崩壊を後押しするものたち

にも若干述べてあるので、今一度読んで頂きたい。


世の中には大勢の悪者が居るが、医師だけに悪人が居ないという保証は何処にも無いし、現に、同業者としては医者とは呼びたくないような馬鹿野郎も時折見掛ける。多くの司法関係者は、先日述べたように、「業務上過失致死傷」に関して、医師だけに例外を認めるわけにはいかないと考えているのは、このような医師にあるまじき者共が出てきた時に、「業務上過失致死傷」を隠れ蓑にするであろう事を懸念してではないだろうか。彼らは医師を『聖人君子』と見ていないし、事実、そうでは無いと私も思う。特に警察は、その職務の性質上、人の『死』や『傷害』等に殊更敏感で、医師という職業は、直接生死に関わったり、後遺症を残す可能性の有る疾患や外傷を扱う仕事であるが故、警察が目を光らせたくなるのも尤もな話である。様々な推理小説でも取り上げられている通り、極端な話、最も殺人を完全犯罪に仕立て上げ易い立場に医師は有る。そんな中、もし医師に「業務上過失致死傷」は無条件に免責という特権を与えてしまうと、それをいい事に狡賢く悪い事をする奴が出て来るに違いないと言われれば、それを否定する根拠は何処にも無い。


しかし、である。医療事故と交通事故等の業務上過失致死には圧倒的に違うところが有る。それは、医療「過誤」や医療「事故」は、患者のために、医師が患者から委託を受けて成された行為に於けるリスクであるということだ。一方、交通事故の場合、例えば車やバイクに轢かれたとしよう。その運転手は、轢かれた人から何らかの委託を受けていたり、契約が成立していただろうか?交通「事故」は、事故の相手側に対しての契約が存在せず、被害者が望んでされたことでは無いという点で医療「事故」とは全く立場が異なり、同じ業務上の過失とはいえ、同一視してはならない。医療に於いては、診療上に起こり得るリスクを想定し、「それでも医療を受けますか?」という問い掛けに対して賛同頂いた場合にのみ加療が始まる。リスクを限りなくゼロに近付けることはできても絶対にゼロにはならないという事は周知の事実で有り、これを受け入れてもらえない限り、残念ながら医師達は一瞬にして無能になるのである。(次回に続く)



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